未来と未来のマッチング
第1回、 「研修病院選び方御法度」の原則! にて、「初期研修の2年間が終われば、あなたはこんなお医者さんになれますよ!と示してくれる病院、未来を約束してくれる病院を探さなければならない」とお伝えした。
なぜこんなことを第一に言わねばならないのかというと、これから病院見学を始める学生にはまだよく分からないかもしれないが、「うちの病院は救急がウリです!」「うちの病院は研修環境の良さがウリです!」と宣伝してくる病院は数多くあっても、 「うちで研修すれば2年後あなたはこうなります!こんな医者になれます!!」と言ってくる病院はほとんどない のだ。医師人生のスタートに立ったばかりの医学部卒業生にとって、何より大事なのはこれからどの方向に医師として歩んでゆけばよいのかを示してくれることだ!と第1回で述べたが、わざわざ第1回第2回と同じことを書かねばならないほど、ここが抜けてしまっている病院が多いのだ。
ハッキリと言おう。 あなたの2年後の姿を教えてくれない病院の研修には中身がない! 本当のところ、真剣にあなたのことを考えて研修に誘ってなどいない、と言ってしまってよい。研修プログラムを考えて考えてド真剣に考え抜いたりなどしていないのだ。
- とりあえず病院が都会にあって救急症例が多いだけ
- とりあえず内科・外科・小児科などのローテーションを組んで各診療科にお願いしているだけ
- とりあえず研修医がいないと病院が困ってしまうから熱心に学生を誘っているだけ
- とりあえず教育熱心な先生に丸投げしているだけ
と、とりあえずの連続が実態なのだ(ああ…、本にも書かなかったことをとうとう言ってしまった)。
これからこのコンテンツで触れようとしている研修病院選び方御法度の数々は「病院側の事情など何も知らない学生が甘い言葉に騙されてしまわないように」と老婆心ながら書くものばかりだが、いずれも根本には“未来のあなた像を示しているか否か”に判定基準があると思ってもらって間違いない。
アメリカの研修はゴールが明確
実は何も根拠なくこんなことを言っているのではない。研修医教育に関しては十歩も二十歩も先をいく米国にはACGME(Accreditation Council of Graduate Medical Education)という組織がある。こいつは何かというと、病院や学会とは独立していて、日本で言う初期研修や後期研修の中身を管理している組織なのだ。
各病院はここがOKを出さないと研修病院として許可をもらえないため、ACGMEが示したゴールを達成できるように病院側が努力しなければならないようになっている。米国社会にとって必要な医師を育てるにはどうしたら最善か?という観点から、研修項目一つ一つについて喧々諤々の議論を行い、国民のためにより良い医師を輩出するにはどうしたらよいのかの一点に絞って細かいプログラムを作っている*。
一定以上の水準を保った医師を育てるために限られた研修期間の中で何を修得させるべきか
、ド真剣に議論を重ねて作っているのである。
*正確にいうと米国には日本でいう初期研修に該当するものはなくACGMEは日本でいうところの後期研修をサポートしている。
未来と未来のマッチングのために
同時に君たち学生にはマッチングや研修病院選びにあたって、自分の研修が終えたころに 「自分はどんな医者になっていたいのか」 の未来像を描いてもらいたいのだ。
「誰よりも患者の声に耳を傾ける医師になりたい」
「どんな患者が来ても初期対応できる医師になりたい」
「専門に進む前に修得すべき知識技術を修めた医師になりたい」
「高齢化社会に向けて高齢者への対応が適切にできる医師になりたい」
それぞれ思うところはいろいろあるだろう。本来マッチングとは、病院の性質対個人個人の資質のマッチングではなく、 病院が示す未来像と自分の持っている未来像とがマッチするか 、という未来に向かってのものではないだろうか。