研修のゴールは実現可能か?
未来像を示してくれた病院が見つかり、どうやら自分の描いている内容とマッチしてそうだと感じたら、次にチェックして欲しいのが、その 未来像(=研修のゴール)がどうやって担保されているのか ということだ。
どんなに耳障りの良いことばかり言われても、本当にそれが実現可能なのかどうか、どれほど真剣に研修医のことを考えてくれているかは、そこでワカルと言ってもよいくらいだ。
知識・技術・態度のレベルをどのように担保しているか
未来像を示してくれた病院が見つかり、どうやら自分の描いている内容とマッチしてそうだと感じたら、次にチェックして欲しいのが、その 未来像(=研修のゴール)がどうやって担保されているのか ということだ。
医師の能力というのは大きく3つに分けられる。診療知識、技術、態度だ。どれが欠けていてもまともなお医者さんではないと言えるが、実際にこんなことがあったと聞く。我こそは日本最高峰だと自負するとある大学の研修医たちは患者について議論するのが大好きなのだそうな。カンファレンスルームでも研修医室でも語り合う。実に美しい光景だ。ときには1時間以上もああだこうだと議論し、実に様々な鑑別疾患や病態への考察をお互いに披露するのだが、議論が終わって気がつくと実は誰も患者を診に行っていなかった。
“机上の空論”だけで患者を診ることはできない。知識ばかりがあっても虫垂炎一つまともに対応できない事例だってある。(…そうであって欲しくないと願うが)
診療態度についてはどうだろうか。おそらく ほとんどの病院が野放し ではないだろうか。患者への接し方は学生時代にOSCEで学習するのだが、模擬患者と本当の患者では年齢も性別も社会的な背景も全く違う。高級住宅街と工場地帯では飛び交う言葉もかなり違う。外来や病室で患者に出会った瞬間に身なりや服装、顔の表情、言葉遣い、過去の既往などの情報から最適な言葉を選び、患者の気持ちに立って言葉を投げかけるのは難しいことだ。患者への説明に専門用語を使ってよいのは相手が医療者であったり、一部のインテリ階級ぐらいだろう。逆に彼らに専門用語を砕いて言ってしまうと分かりにくい説明となってしまうこともある。
診療態度についてはどうだろうか。おそらく ほとんどの病院が野放し ではないだろうか。患者への接し方は学生時代にOSCEで学習するのだが、模擬患者と本当の患者では年齢も性別も社会的な背景も全く違う。高級住宅街と工場地帯では飛び交う言葉もかなり違う。外来や病室で患者に出会った瞬間に身なりや服装、顔の表情、言葉遣い、過去の既往などの情報から最適な言葉を選び、患者の気持ちに立って言葉を投げかけるのは難しいことだ。患者への説明に専門用語を使ってよいのは相手が医療者であったり、一部のインテリ階級ぐらいだろう。逆に彼らに専門用語を砕いて言ってしまうと分かりにくい説明となってしまうこともある。
患者の何気ない一言や仕草から疾患への糸口が見つかることだってあるのだから、ただ丁寧な言葉遣いや、とりあえず「お」や「様」を付けるのと、診療態度を身に付けるということは大違いのはずだ。(うーむ、自分で書きながらこれを教えるのって難しい…。)
この3つの能力が2年間でどれほど達成できたのか、それを確認している病院はどれほどあるだろう。知識や態度については試験をすることで、技術については実際に行った回数をカウントすることによって、どのレベルまで到達して欲しいと病院が考えているかを示すことができるはずだ。
そして到達度の評価をするからには、 どのようにして病院がそのレベルを担保しようとしているのか を明らかにしていなければならない。
研修のレベルを担保するために
たとえば次のような一覧表を見せられると説得力がある。
- Common diseaseを一通り経験するために救急外来では1000例以上の経験を要し、病院はその全数を把握する。
- いくつかの特殊な症例については症例に限りがあるため指導医+研修医複数人で経験させる体制をとる。
- 手技については下記の通り、それぞれに一定数以上を経験することを要し、不足する場合は不足者に対して院内で申し合わせの上、その症例があった場合に経験させる体制をとる。病院はその数を把握する。
- 診療態度については講習を行い、一定回数以上の出席を要する。また指導医・患者アンケートからのフィードバックを行い、特に修正を要する場合は特別講習を行う。
これらはほんの一例で細かく決めようと思えばいくらでも決められる。立派な医師になるために、研修という荒波を乗り越える船を作ろうと思っても、それを作るために必要な設計図がなければ、絵に描いた餅と言われても同じだ。研修を宣伝するどんな美辞麗句もそこが“机上の空論”では困るのだ。
なお、個人的には 達成度が一定に満たない場合には留年させる のも本当に研修医のことを想ってくれているのだと思う。ACGME*1理事長のThomas.J Nasca氏も来日講演した際、「施設によって卒業者の到達度にかなり差がある」という質問者の回答に「研修終了時の筆記試験や現場評価と補修の存在」の必要性を挙げているが、甚だ同感である。
*1米国にて卒後臨床研修の基準を定め、プログラムを認証し、定期的にプログラムの質を検証する民間組織。