【研修病院選び方 御法度・第18回】アドバンスド研修病院選び(4) “世界標準”をキーワードに銘打った病院を探せ!

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アドバンスド研修病院選び(4) “世界標準”をキーワードに銘打った病院を探せ!

前回 は「論文にアクセスしやすい環境の重要性」について述べた。この重要性は医師3年目の後期研修が始まってから感じる人が多いのかもしれないが、研修先を選ぶ際、学生のうちから先を読んで目をつけて欲しいのだ。論文アレルギーのところでも少し触れたが、世界の医療は英語が標準語だ。アレルギーでも苦手でも、英語には必ず直面しなければならない。だって専門書も最新文献も基本的に英語だから嫌でも読まなければならないんだもの。今回は英語教育の側面から研修病院を選んでみたいと思う。

英語教育をする病院を探せ!

より洗練された研修先を探したいのなら、英語教育を行っている病院を視野に入れてみよう。ここで言う英語教育は、単語や文法の講義ではなく英会話と考えてよい。院内で定期的に英会話のサロンをひらいているとか、カンファレンスのプレゼンテーションを英語でさせているとかだ。恥ずかしいとか苦手とか関係なく、否応なく英語のある環境に身をおかせてもらうことのできる病院だってある。院内に海外のドクターを招いて定期的にカンファレンスを英語オンリーで行っている病院も多々存在している。

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海外からの使者

どうせ勉強するなら医学に関係する人から実践的なところを学びたいものだ。 毎年定期的に日本に来られては私たち若手医師にレクチャーをして全国行脚をしているスーパードクターズがいる 。ローレンス・ティアニー先生やジェラルド・スタイン先生 * の直接の講義を聴いたことがある学生もいるかもしれない。熱心な研修病院は彼らを招待して、毎年(ときには1週間ほど滞在いただいて)講義やbed side teachingを行っている。彼らは我々日本人が英語が苦手であるとよく知っており、ゆっくり丁寧に解説をし、診断までのプロセスや基本的な診察、手技を生でレクチャーしてくれる。その熱心さと気さくさに感銘を受けない人はいないだろう。“世界の医療に触れた”という感動と経験は、 医師としてのモチベーションやロールモデルの構築に大きな影響を与える

セカチュー:世界の臨床の中心は?

どうしてそんなに英語を押すのだ?アメリカかぶれか?と思われても仕方ないが、英語教育を研修病院選びの選択肢に加えるのには理由がある。ただ最新の情報を得るためだけに英語に慣れておくというだけではない。日本と世界の医師教育では、重要視されている文化に大きな隔たりがある。多くの論文を目にするとだんだんと分かってくるのは 世界の臨床の中心にあるのは疫学 なのだなということだ。疫学っていうと、大学の授業科目では公衆衛生に該当することが多く、大切な分野と分かりつつも内科や外科などの臨床科目、解剖や生理学といった基礎医学よりちょっと重要度が落ちる、なんとなく地味で大人しい分野という認識をしている学生もいるのではないだろうか。一方、日本の臨床では病態生理の解釈が中心にあって、未だに疫学ではない感じがプンプンしている。分子レベルや細胞レベルであーなってこーなっているからこの治療が正しいのだ、という議論が未だに(特に製薬会社主催の)勉強会に参加しても活発だ。

診断方法にしても治療にしても、実際に多様性のある人間に適応してみないと分からないことは多い。理論的には合っていても、実際には「副反応が多すぎて使えない」、「患者予後を改善しない」とボツになった薬は山ほどある。ごくごく当たり前のことなのだが、患者にもっと有益な方法(世界では標準的とされている方法)があるのに、なぜかボツにならずに使われている方法が日本では未だにまかり通っていたりする。その理論が「病態生理的にオッケーだからいいでしょう!」というものなのだ。

本当にそれは正しいのか?

疫学とは統計をもとにした、信頼性の高いデータベースのことだ。自分のやっていることが正しいかどうかの基準は病態生理の理論だけではだめで、疫学をもとに証明しなければいけない。それがRCTの論文だったり、メタアナリシス(RCTを行った複数の論文を更に解析したもの)だったりする。
こういった疫学がEvidenceと呼ばれるものであり、洗練されたものが世界の標準的な医療となっていく。論文の解釈というのは複雑な因子が絡んでおり、それらが統計学的に正しいかどうかは実際に自分で論文を書き始めてみないと分からないことも多いのだが、その入口として英語から世界をのぞく姿勢が必要となってくる。 自分のやっていることが世界の標準から外れているのかどうか(=日本独自の慣習なのか、ローカルルールなのか)を知る知恵を身につけて欲しい のだ。もちろん病態生理が不要といっているのではないことは賢明な読者なら言うまでもないだろう。

製薬会社と堂々と癒着する病院は厳禁

この辺の話になってくるとどうしても影響を与えてしまうのが、製薬会社によるDI(Drug Information)なのだ。院内勉強会でお弁当が出るのは製薬会社が自分の薬を使ってもらおうと利益誘導するためであって、世界標準の治療を伝えるために来ているわけではない。
その証拠に彼らは自分の薬のマイナス面をアピールすることはない。あっても悪くないように悪くないようにできるだけ都合のよいものしか見せないことが多い。もし自ら弱点を情報提供するのであれば、その製薬会社に対する信頼がかえって増すのだが、彼らにはそれができない。営業に来ているMRさんが悪いのではない。彼らはそれが仕事なのだから仕方がない。優しくしよう。そんな情報提供に、 疫学を理解しないため、世界の標準を知らないために、こちらが太刀打ちできていない ことに問題がある。ちなみに海外では製薬会社と関係をもったことが分かるとBoard(専門医)を取得できないこともあるようだ。

ポイントの整理

* 米国の親愛なる友人ジェラルド・スタイン先生に講演の依頼など連絡を取りたい方は筆者までご一報いただければ対応させていただきます。