続・救急で選ぶな!?研修病院
前回
「救急がイイから絶対にイイ!」は御法度とお伝えした。理由は研修には必修科のローテートがあり、その大半は一般病棟研修だからだ。なぜ救急研修の話で病棟研修を引き合いに出すかというと、救急に強い病院では、研修医たちはそれこそ救急当直が生活の中心となって働く。
当直では一睡もできず、文字通り馬車馬の如く懸命に働き、貴重な経験を重ねていく。過酷な現状も「昔はそんなもん当たり前だったわぃ!」と古い先生に言われてしまいそうだが、時代は変わった。
疲労困憊の研修医に翌日も普通に診療させて事故が起これば訴訟問題になってしまうことだってある。訴えられたら負けは確実な時代なのだ。そうした配慮から当直翌日のタスクをフリーにして休みにしている病院も多い。
「研修医が疲労しすぎないようによく考えているなぁ」とも思えるが、翌日休む必要のある研修医が - たとえば内科をローテートしていたら誰が担当患者を診てくれるのだろうか。ナースが研修医の担当患者のことで電話をしても自宅で深い眠りの中で連絡が取れないということもある。そうなると 病棟ナースから指導医に上がってくるのは苦情の声 だ。しかも、数人で声を上げて集団訴訟を呈することもしばしば。指導医はやむなく研修医の負担や責任を分散させざるを得ない。すると病棟研修においては書類記入や検査・点滴オーダーばかりの雑用 * +外来見学が研修のメインという、学生実習に事務作業が加わっただけのものになってしまいがちなのだ。こうした一連の流れを 救急研修疲労症候群 と名付けたい。救急研修疲労症候群への対策は病棟研修の明確な目標設定と達成度評価、これに尽きる。
* 筆者はこれらも大切な研修のうちと考えるため雑用という言葉は本来相応しくないことを追記しておく
ない!ない!外来研修がない!?日本の研修
ここで疑問に思った読者もいよう。病棟研修がダメでも内科なら内科外来での研修が何かしらあるんじゃないの!?なんで“見学”と決めつけるの?と。
非常に鋭い突っ込みであるが、実はその通りなのだ。内科や外科をローテートしているとき、内科外来や外科外来を研修医が担当し、「外来ではこのように患者を診るのだよ」とはじめの一歩から丁寧に教えてくれる外来教育は日本には存在しない(と敢えて断言する)。
驚くべきことに初期研修が終わった途端、ある日突然外来に立たされて、見よう見マネで外来患者をこなす、なんちゃって外来から、その第一歩が始まっているのがほとんどなのだ。大きな病院ほど外来は専門分化されており、専門領域における知識が不十分な研修医が外来に立つことはできない、いや、立たせることができないのがその内情である。
学生でもわかるだろうが、まともな外来研修不在の現状はハッキリ言っておかしい。医師3年目になって突然外来診療ができるようになるなんてありえないことだ。患者が自分の状態を適切に把握できているわけではないから、患者の主訴は時として上手に医者をだます。たとえば心窩部痛で消化器科にかかって胃腸炎と診断された人が心筋梗塞だったため見逃した!なんてことはよくある話だ。
外来にはいつも通り同じ薬をもらいにくるだけの人もいれば、体調の微妙な変化を見抜いて適切な検査を行い、適切な診療科に振り分けることだってある。たとえ消化器科で外来をしていても、全身を診る姿勢を身につけていなければ恐ろしい見落としをすることだってある。どこかでその穴を補填しなければならないのだ。救急外来で多くの患者を経験し、よくある疾患(Common diseases)に対応する。そして外来研修で専門診療科特有の非典型症状を持った患者を経験する。この2段重ねがないのだ。外来研修はなく病棟研修もイマイチでは内科・外科ローテートは一体なんの時間なのだろうか。
いずれにせよ、研修病院選びは救急だけを見ていてはダメなのだ。
ポイントの整理
- (1)救急研修がイイ病院→それだけで選ぶべからず
- (2)病棟研修の中身をチェックすべし
- (3)病棟研修に目標設定、評価方法があるかをチェックすべし
- (4)外来研修の有無、どうやって研修させているのかをチェック!
第12回は 大学病院より市中病院のほうがイイ!? をお届けする。