アドバンスド研修病院選び(3) 院内採用文献のネット環境を調べよ!
前回の「 教育に力を入れているかどうかは勉強会で見抜け! 」では、教育をさせる機会について述べてみた。今回は教育上重要な位置を占める「情報ソース」について話をしよう。
研修医が手に入れられる医学情報のソースは、研修病院によって多少バラツキがある。他人に何かを教えるにはそれなりに準備が必要だが、いったい何を根拠に教えていけばいいのだろうか。学生であれば国家試験対策本のゴールドスタンダードはイヤーノート ® がすぐに思いつくだろうが、研修でイヤーノート ® を使っている人はあまり見たことがない。よくまとまっている本だが、千差万別の病態で現れる 実際の患者を前にしては役不足 なようだ。イヤーノート ® が役に立つのは内科の認定医や専門医試験のときに、網羅的に情報を仕入れる必要性のあるときになるだろう。
内科のことであればやはり名著ハリソン ® だろうか。なんとなく海外の本であれば良さそうな雰囲気がする。ハリソン ® が日本の他の内科学の本とどこが違っているのかというと、ハリソン ® は冒頭のpart2に主要徴候として、疼痛や胸部不快感、腹痛など外来診療で必ず出くわす「主訴」の記述が詳しい。疾患ごとの病態生理に詳しい記述があるのも確かにハリソン ® の凄さであるが、実臨床では「私は肺炎なので肺炎の診療をお願いします」と患者は言ってくれない。ハリソン ® が冒頭で示すように主要徴候から読み解くことから診療が始まる。残念ながら日本の教科書は往々にして、この点が欠けていることが多い。
論文アレルギー
ハリソン
®
を読むと感動を覚えるのが、その記述の細かさにもある。いちいち詳しく、ときに具体的に書いてあり、誰が読んでも読み間違いはしなさそうである。日本の教科書でここまで詳しく書いているのは、あまり見たことがない。
実はこの背景には日本語と英語の記述文化の違いが大きいと言われる。日本語はハイコンテクスト文化、英語はローコンテクスト文化と呼ばれる。ハイコンテクスト文化とは簡単に言うと「察する文化」。
ローコンテクスト文化とは簡単に言うと「わからんから皆まで言え」という文化のことだ。米国のように移民が多く、多様性を重んじる文化では「察してくれ」と言っても「何が言いたいかよく分からない」「意見がないのか」と思われる。どうりで英語ベースの教科書は分かりやすいわけだ。
その「ハリソン ® に書いてありました」でさえも、臨床ではまだまだ不十分なときがある。ハリソン ® は一体何をもとに書いてあるのだろうか?それぞれの項目に経験豊富で詳しい先生が書いているのは間違いないだろうが、その先生はいったい何を根拠に書いているのだろう。エキスパートの経験なのか、それともRCTに基づいたEvidenceなのだろうか。章末の引用論文の山には頭が下がるけれども、その引用論文の中身を知るには実際に論文に当たらねばならない。論文、英語でしょ?と聞くと途端に即時型アレルギーを起こす人もあるかしれないが、医者をやっていく上で論文からはもう逃げることはできない時代となっている。
UpToDate ® はもう古い?
英語のソースというとUpToDate
®
を思い浮かべる賢い学生さんもいるだろう。UpToDate
®
やDynaMedTMなどのまとめサイトのことを二次ソースと呼ぶ。これらのサイトはいわゆるEvidenceの高い論文(一次ソースと呼ぶ)をもとに書かれた信頼性の比較的高いものとなっている。これを勉強会で用いている研修医も多いようだが、個人的にはまだまだ不十分と言わざるを得ない。
研修医の先生が「UpToDate
®
に書いてありました」で済まそうとすることだってある。日本はハイコンテクスト文化なので「察してくれ」ということだろうか。UpToDate
®
などは更新もその都度行っているようだが、ダイレクトに最新情報が届くわけではない。現在はインターネットであらゆる情報へのアクセスが容易になったことから考えるとUpToDate
®
の情報が古い可能性だってある。そもそもUpToDate
®
をまとめた(たぶん)エライ人はどこからそんな情報を持ってきたのだろう。そのソースにはどのように書いてあったのかを知らない限りは、いつまでたっても時代遅れになってしまうのだ。
自らUp to dateできる医者になるべし
研修医として学んで欲しいSkillの中に一次資料に当たる技術がある。自ら知識を常にUp to dateできるようになっていかないと、どんどん情報から取り残されてしまう。
ハリソン
®
を読んでいればよいという時代は終わった
。自分で自分がやっている診断の方法、検査や治療の信頼性について分からねば、“みんながやっているからこれでいいだろう”とガイドラインや真っ当そうな教科書の正誤を確認することもなく、盲目的に医療を行う医者になってしまう。
逆に自分で文献に当たる力のある人は、どんな地域にいっても世界最先端の医療を患者に提供することができる。インターネットによって医師の学習スタイルも昔ながらの徒弟制度の上意下達(Experience based medicine)から、自分でEvidenceに当たるEBMに変わったのだ。そうやって学生や研修医にも世界最先端の医療を教えることができる病院には若手がどんどん集まるわけだ。
院内採用文献のネット環境を調べよ
一次ソースに当たるには院内の環境に図書室があることが大前提だ。その病院の図書室にどれだけの文献が採用されているかを知るのはちょっとマニアックかもしれない。大学病院でさえもちょっと採用している文献が足りない…というところだってあるのに、一般病院では尚更だったりする。病院単位での雑誌の契約ってすこぶる高価なのが理由だ。最低ラインでも主要な電子ジャーナル集(ClinicalKey ® など)は入れて欲しいものだ。UpToDate ® もない図書室もない電子ジャーナルもない病院なんて、研修医に 時代に取り残された医者になってくれと言っているようなもの だから研修先として選んではダメなのだ。たとえなくても大学病院の図書館に自由に入れるように契約するなどしておかねばならない。
今回の内容は人によってはアドバンス過ぎると感じるかもしれない。だが、 - 次回 にも触れるが - 新時代の医師として生き抜く力を培うのは研修医のときをおいて他にないのだ。
ポイントの整理
- (1)二次資料だけで満足してはいけない
- (2)病院の図書室を必ず見学させてもらおう
- (3)論文の読み方、集め方、管理の仕方を教える先生を探せ